職場がおうちへやってきた

職場がおうちへやってきた 第8回 - サクセスストーリー

[2009年7月30日掲載]

ゼロからの挑戦

宮崎県都城市。霧島連峰を望む自宅の一室で、OKIネットワーカーズの山本健二(やまもと・けんじ)はパソコンに向かう。人差し指と中指の間に差し込んだ鉛筆を駆使。器用にキーボードを叩く。

1996年の冬、健二は長野のスキー場で事故に遭った。スノーボードで滑走中にバランスを崩し、激しく転倒。その衝撃で頚椎を損傷し、首から下一切の感覚を失ってしまう。大阪で会社勤めをしていた頃のことだった。

もう二度と歩けない……。長野の病院に運び込まれた健二は、その事実を知って愕然とする。自分はこの先、一体どうなってしまうのだろう。涙が、とめどなくあふれた。

〈これから一生、いろんな人に迷惑をかけながら生きていけというのか?そもそも、こんな僕に生きていく価値はあるのか?〉

ほどなくリハビリが始められたが、それはまた、孤独な闘いでもあった。故郷から遠く離れた病院。周りは重い病状の高齢者ばかり。しかも、頚椎損傷の患者は自分以外にはいない。心を通わす相手もいない。そんな環境が、さらに健二を追い詰めていく。

どんなに頑張ったところで、元の身体には決して戻れない。自暴自棄に陥った健二は、絶望のあまり、死ぬことばかりを考えるようになる。

受傷から半年が経っても、うつむいてばかりの重々しい毎日が続いていた。ふるさとへ帰りたいが、受け入れてくれそうな施設もない。何もかもを諦めかけた時、健二は思いがけない人物と出会う。それは、神戸のリハビリ専門病院の院長だった。

「うちの病院には、山本君のような若い障害者がたくさんいて、みんな一生懸命にリハビリを頑張っている。君も来ないか?」

健二は迷わずそこへ飛び込んだ。もうどうでもいい、そんな思いもあった。しかしこの選択が、健二の生きざまを180度変えることになる。

厳しくも温かい医療スタッフ、熱心なセラピスト。そして、同じような境遇におかれた多くの若者達。健二の目には、何もかもが新鮮に映った。

ある日、健二は一人の入院患者と知り合った。ある病気のために、健二と同じ障害を背負った同世代の女性だった。彼女が全力でリハビリに励んでいる姿を、健二は目の当たりにする。

〈僕は、自分の不注意でこうなったんだ。でも、この人は違う。それなのに愚痴一つこぼさず、目標に向かって前向きに生きている……〉

障害を負って辛い思いをしているのは、自分だけじゃない。健二はその事実をまっすぐに見つめた。そこで初めて、ありのままの自分を受け止めるのだった。この身体で生きて行くしかない、いや、生きていかなければ、と。

〈僕も、この人のようになりたい。何か目標を持たなければ……。そうだ、自立だ!〉

リハビリが順調に進む。不思議なほど頑張れる。助かったこの命、そして自分を支えてくれる家族や友達の気持ちも大切にしなくては。健二はすっかり前向きになった。

もともと活発な人間だった。幼い頃はファーブルに憧れ、自然の中に飛び込んでは虫や魚を追いかけた。少年野球チームにも参加し、毎日砂ぼこりをかぶった。その頃の活力がよみがえり、健二は車いすマラソン、またツインバスケットボールにも挑戦するようになる。

健二はリハビリやスポーツに励む一方で、就職も目指していた。2002年には放送大学に入学。2004年からは、宮崎県の“重度身体障害者在宅ワーク支援研修事業(現・障がい者在宅就業支援事業)”に参加し、IT技術を学ぶ。

こうした努力の積み重ねは、やがてOKIワークウェルへの就職という形で実を結ぶことになる。

「就職ができるなんて、本当に嬉しかったです。障害者でも社会に役立つことができる、障害者でも社会が必要としてくれる。これを実感できたことで、自信も生まれました。親孝行にもなったかな。心配のかけどおしでしたから」

健二の仕事は美術的センスにも溢れる。最近では、プロジェクトを取りまとめるディレクターとしての活躍の場もできた。また、OKIワークウェルの広報的な役割を担う機会も多い。ワークウェルコミュニケータのデモには欠かせない存在である。障害者のテレワークに関するセミナーなどに、パネラーとして招かれることもしばしば。2008年12月には、厚生労働省が取り組む“ATARIMAEプロジェクト”の取材に応じ、宮崎県知事の東国原英夫氏と対談。仕事や夢について熱く語り合った。

「面白きこともなき世を面白く住みなすものは心なりけり」 ……これは高杉晋作が残した辞世の句である。健二はこれを座右の銘としている。自分の人生は自分の気持ちしだい。最後まで、自分にできることを追求したい。

受傷という挫折から始まったゼロからの挑戦。健二はそれを今も、真摯に、そして爽やかに続けているのである。

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