[2009年4月13日掲載]
(図1)
図1は、ワークウェルコミュニケータをパソコン上で使用するための操作画面である。このグラフィカル・ユーザーインターフェースの開発・デザインはOKI研究開発本部が担当した。その後、トロント大学のMark Chignell教授と、インターン生としてOKIに来ていた同大学のAnnie Xuによって改良が加えられた。
ワークウェルコミュニケータの主たるユーザーである重度障害者たちは、パソコンのキーボードやマウスを自由に操れないことが多い。そのため、ワークウェルコミュニケータの操作ボタンは、外部接続のテンキーでも操作できるようになっている。物理的なボタンなので、マウスのように画面を見ながら位置決めをする必要がない。
オフィスでは、全員が机を並べて作業する場合と、プロジェクトごとに小さなグループで話し合う場合とがある。このような状態をシステム上で実現するため、ワークウェルコミュニケータでは共用ルーム1つ、個別会議室6つを準備した。使われていない会議室は、その会議室のボタンに【空】と表示される。各会議室は完全に個室化されており、その音声は他の会議室では一切聞こえない。
相談したい人物がいつも共用ルームにいるとは限らず、個別会議室で、別の打ち合わせをしているとか、一時退席している場合もある。このような時に、相手がどこにいるかを見つけるため、プレゼンス機能による表示を準備した。
オフィスではなく自宅での作業であるため、各々の生活の様子がワークウェルコミュニケータの会議室に直結されている。したがって、家庭の会話や、飼い犬の鳴き声などの雑音が会議室へ漏れてしまい、他のメンバーの迷惑となったりする。プライバシーの問題が発生する恐れもあるため、一つのボタンでマイクの音量を切っておくことのできる、ミュート機能を装備した。
言葉では説明できない、たとえば単語のスペルを確認し合うような時に利用する。表示されている在席者名をクリックすると、入力窓がポップアップする。メッセージを入力してOKボタンを押すと、その相手にだけチャイム音と共にメッセージが届く。何も入力しないで送信すると、「連絡をお願いします」というメッセージが送られる。「今、メールを送ったので、至急読んでください」など、特定の人にだけ声をかけたい場合にも有効である。
(図2)
OKIワークウェルには現在、気管切開により発声のできない在宅勤務社員が一人いる。この社員はワークウェルコミュニケータでの発言ができず、的確なタイミングでコミュニケーションがとれないという作業ハンディがある。
その対策として、ワークウェルコミュニケータで応答するための音声補助ツール、ボイスアウト(Voice Out)を開発した。(図2)
「はい」とか「いいえ」などという最小限に必要なボキャブラリを、合成音声によって音声ファイル化したソフトである。これをワークウェルコミュニケータと同時に起動しておく。ボイスアウトには現在20数種のメッセージが登録されている。相手の質問に対して、適当なメッセージを選択し、クリックするかエンターキーを押すだけで、その音声が相手に伝わる仕組みである。
このツールによって、発声のできない社員が、ワークウェルコミュニケータでの会議に参加することが可能になった。
ただ、ボイスアウトは現在のところ、応答や意思確認を目的とするものにとどまっている。具体的なやりとりとなると一方通行を免れないが、ワークウェルコミュニケータに搭載されているチャット機能を併用すれば、一応のセッションがとれる。
(図3)
重度障害を持つ在宅勤務者による、自宅作業場での実際の使用風景を(図3)に示す。
この社員は進行性の筋疾患で、指先を動かすことしかできないため、外付けのタッチパッドと、箸のような棒でパソコン入力を行っている。しかし、ワークウェルコミュニケータの操作に何ら支障はない。
ワークウェルコミュニケータは社内で運用開始以来、OKIワークウェルすべての業務の中核となって機能し、今ではすっかり定着している。その中で不具合や問題点を洗い出し、改善・改良を積み重ねてきた。業務上のコミュニケーションをより豊かなものにするため、ワークウェルコミュニケータは、今後も、たゆみなく進化を続けていくことになるだろう。